宇宙船のセットの作り方に思う矛盾

AFIの中で紹介してもらった作品のひとつを手伝いに、ダウンタウンの倉庫街にある倉庫に、セットの建込みを手伝いに行きました。宇宙船のセットを作っていると聞いたので、少し内容が楽しみな感じです。僕がデザイナーとして参加したAFIの作品は、サイクルフィルムと呼ばれて、1年生や2年生が授業の中で作る映画。今回手伝いに行ったのは、Thesisと呼ばれる、いわゆる卒業制作です。サイクルフィルムに比べてThesisの方が、学校から与えられる予算が大きく、その分クオリティも高く、フィルムフェスティバルなんかでもよく賞を取る作品群です。デザイナーは在校生のプロダクションデザイナー学科を3年間経てきたデザイナーが担当するのが普通です。

結論から書いてしまうと、まったく大したことはないです。AFIといえど、所詮学生映画です。たいした経験のない学生が、無い知恵を絞って、パッと見はプロっぽい制作をやろうとするのだけれど、結局はいろんなところで破城していました。もちろん、学生や、学校を卒業したばかりの若者にとってはそれはたいそうなプロダクションバリューなのかもしれないですが、何年もプロの現場を経験していた僕から見ると、矛盾だらけのプロダクションでした。この日のあとに、もう一日手伝いに行きましたが、撮影には参加しませんでした。

IMG_1800宇宙船のセットを作っていました。僕や、ほかに3,4人集まった助っ人たちに頼まれたのは、宇宙船が地球に不時着した時にできた、砂の盛り上がりを作るというもの。僕らに支持を出していたのは、デザイナーではなく、デザイナーに雇われた(もちろんノーギャラで)、AFIではない映画学校を最近卒業したばかりの女の子Mollyです。Mollyの指示に従って、ざっくざっくとベニヤをカットして、その上に金網をからめて、一度宇宙船のセットとあわせて見たときの写真が左です。

IMG_1803さらに作業をすすめて、布を10センチ幅くらいに裂いて、石膏にひたして金網の上に張り付けていき、さらにそれに固まりそうになった石膏をモソモソと乗せたのが右の写真です。まだ塗装前ですが、なかなかの出来栄え!!最終的にはこの上に本物の土をかぶせる予定らしく、これはあくまでの下地。下地にしては、よくできた質感です。

僕は、14年前にLAで学生をしていた時に、同じような宇宙船を作ったことがあったし、もちろん日本でも宇宙船のセットも地面の岩や土なんかも、たくさん作った経験がありました。そこで、作業を始める一番最初に、Mollyに尋ねました。「こういう時は、スチロール使った方がよくない?」と。それに対する答えとしては「でも、スチロールは1本100ドルくらいかかるでしょ?こうやって、宇宙船を作る時に余った木端と、HOME DEPOTで金網と石膏を使えば、材料費が50ドルくらいで済むのよ」というもの。

セットの作り方はいろいろあって、デザイナーによりけりなのですが、僕としてはまったくもっていただけない方法論です。そこで50ドルを節約するために、作業時間は2倍かかるし、人数は4人もかかったのです!スチロールだったら一人でホイホイ動かせるので、一人で作業できるし、形ができた瞬間からベースの塗装に移れるけれど、石膏で作ってしまうと、動かすのに二人ががりになるし、乾燥待ちの時間もかかるし!しかも出来上がるのは、踏んだらボロボロ崩れてしまう弱っちい地面でしょ!それでも材料費を50ドル削って、人を3人多く呼んで、2倍の時間をかけた方が良い、という判断は、実践的な映像制作でも何でもなく、ただのままごと遊びでしかありません。

既にできあがっていた宇宙船の曲面も、薄いベニヤを10層ほど重ねて必死に曲げて、それでも大きく開いたつなぎ目は、石膏で埋めていました。これを削ってカーブにしていくとMollyは言っていました。これ削るの、とんでもない作業だな、、、と僕は心の中で途方に暮れていました。こんなに頑丈で重たい宇宙船を作る必要が、どこにあったのでしょう?誰かこれを正せる人が、AFIにはいなかったのでしょうか??と疑問に思います。

そうやって僕らが作業をしていると、そこにデザイナーがやってきました。セットの進み具合をひととおり見て、彼女は倉庫の片隅で、何やらテーブルを作り始めました。僕は何をしているのかな?と思って見ていましたが、実は、そこにドラフティングテーブルを作っていたのです。ドラフティングテーブルというのは、机の天板が斜めになっている、線を水平に引ける長い定規がついている、デザイナーがよく使っているあれです。ワイヤーをつないで、定規が常に水平になるようにしないといけないので、組み立てがけっこう複雑らしく、2時間ほどかかっていました。机が完成したら、そこで彼女は新しいセットの図面を引きはじめました。

僕は気になって、何のセットの図面かを尋ねましたが、これは、今僕たちが制作している同じ作品の、別のセットの図面だったのです。撮影が来週に迫っているのに、まだ図面が引けていなくて、今ここで倉庫の片隅で、こうして図面を引かなくてはいけないのだそうです。「本当は今日にでも制作を始めたいのだけれど、、、まだ図面ができていないのよ」そう言って彼女はそこで、A1サイズくらいの用紙に鉛筆でうっすらと下書き線を引き出したのです。

頼むからSketchUp使ってよ!と、僕は心から叫びそうになりましたが、それを抑えて、「PCは使わないの?」と聞いてみましたら、「私PCは苦手なのよ」という返事。それじゃだめだよ!時間ない時はよけいにダメだよ!あなたAFIで3年間勉強してきたのに、PC使う勉強はしなかったの!?と聞きたくなりました。

その後彼女と話していると、床の塗装について相談されました。方法論を聞いてみると、ベニヤ板を4インチ幅くらいに割いて、それを上手く塗装して、木目の感じを出して、床材にしようとするそうです。こういう感じのエイジングがいい、というイメージはあるみたいですが、それをベニヤで表現するのが難しく、どうしたらいいか悩んでいたのです。僕はビニルタイルをベースに使って、それにワックスで汚しを入れる方法をおすすめしましたが、予算がないという理由で却下されました。やはり、ベニヤを割く手間や、必要な木目を出すのに必要な塗装の手間はタダだけど、ビニルタイルはお金がかかるという考えです。

AFIの学生映画は、レベルが高く、映画祭などではとても高く評価されています。確かに、日本の学生映画と比べるととてつもないレベルの高さだし、日本の低予算プロダクションよりもプロダクションバリューは高いです。かといって僕が経験を積みたいプロダクションではないのは明らかでした。LAにきてまだ2週間で、腕慣らしには良い経験でしたが、それ以降AFIの撮影を手伝うことはありませんでした。どこかで、もう少し効率的な制作を教えてあげる先生がいないのかなあ、と疑問に思います。These who can’t do teach.という英語のことわざがありますが、日本でもアメリカでも、その通りなのかなあ、と思ってしまいます。

さて、果たして自分が思い描くレベルの高いプロダクションに参加できる日は、いつになるのやら、と思いながら、帰りの車を飛ばしました。

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