AllState “Oversharing” CMキャンペーン

現在の「泥棒」の78%は、空き巣に入る前に、FacebookやTwitterで、その家の住人が外出していることを確認するらしいです。「○○なう」と、家族の写真と一緒に自分が外出していることを世に知らしめるのは、「自分の家は留守ですよ!」と泥棒に伝えていることにもなると、保険会社のAllStateが啓発キャンペーンをおこなっていて、今回のCMはその一部でした。

1月1日に毎年行われるアメリカンフットボールの決勝戦に、抽選で選ばれた夫婦を招待し、案の定「スタジアムなう」と、つぶやいた夫婦の家に侵入して、その家の家具や生活用品などすべてを、メチャクチャに荒らし、さらにその場でネットで売り出してしまうのです。1月1日のフットボールの試合は、アメリカではとても有名で、みんなテレビで見ているらしく、CMを見た人はその場でウェブサイトにアクセスし、夫婦の家具を買うことができるのです。その様子は実際にスタジアムのスクリーンにも映しだされ、それを見たカップルは愕然とする、という展開です。公開されたHPでは実際に商品を買うことができて、買った人はみんなTwitterで「○○ゲット!」「あんたの家のテレビ買ったよ!」なんてつぶやいて、ゲーム終了時には、ターゲットとなった夫婦の家は、車まで売られてすっからかんになる、というオチです。

似たようなこと日本でもだれかやらないかな、、、。

もちろんこれはドッキリで、ターゲットの夫婦はシカゴに住んでいますが、撮影はすべてLAに夫婦の家のレプリカを建てて行いました。家具や小物、車も、すべて同じものを用意して、夫婦がカスタマイズしたもの、世界に1つしかないコレクションものの商品なんかも、全部同じものを作りました。この作業は、やっててとっても面白かったし、リアルなアメリカの家のデザイン、建て方、飾り方など、とても勉強になる企画でもありました。

監督がジャッカスの監督だった

まず撮影前に、実際にターゲット夫婦の家にロケハンに行きました。シカゴに行くというのを聞いた時に、監督がジャッカスシリーズのジェフ・トレメインだということを聞きました。そして、LAからシカゴに飛ぶのは僕と監督の二人で、他のクルーはニューヨークから来るというのも聞いて、お腹が痛くなりました。ジャッカスを考えた人なんて、絶対に、超変人でクレイジーな人だと思いました。そんなクレイジーな巨匠と飛行機で二人で4時間も、何を話したらいんだろう、、、とか考えて。めちゃ緊張しました。結果的には飛行機の席は離れていたので、ジェフと会ったのはシカゴの空港に着いてからで、その時は他のクルーもいたので、ジェフと二人きりになることは回避できました。

これはこの仕事を終えた時の感想ですが、ジェフは、彼がジャッカスを監督したなんて想像がつかないほど、まともで、真面目で、めっちゃ親切でフレンドリーで、控えめな人でした。なんでこんな素直な人が、あんなバカみたいな映画を作れるんだろう、と不思議に思いました。

ターゲットの夫婦の家に行く

ロケハンは、夫婦の家に、リサーチのためのインタビューに行くと称していきました。監督のジェフは顔が一般人にも知られているので車で待機しつつ、他のクルーがリサーチ会社の職員という設定で、何食わぬ顔をして家にあがり込みます。で、リビングで夫婦のインタビューを撮影している間に、僕らは2階やガレージの写真を撮ったり、採寸したりを、忍び足でおこないました。途中でさりげなく「これはどこで買ったの?」「これは何かカスタマイズしたの?」とかを夫婦から聞き出したりしました。カスタムメイドだったソファや、親戚からもらったという古い食器棚なんかは、LAで完全にゼロから作る必要があるものもたくさんありました。与えられた時間は1時間と短く、音も立てずにロケハンするのは初めての経験で、スリリングで、それだけで面白かったです。

インタビュアーが「じゃあ2階の部屋も見せてよ」と言ったのを合図に、僕らは1階の部屋に移動します。採寸だけでなく、キッチンのカウンター、シンク、蛇口、キャビネット、ドア、手すり、窓など、全部のパーツがどんなものかを記録しました。壁にかかってる絵や写真は高解像度で写真を撮ります。本人たちの思い出写真も全部複製しないといけないので。

LAに帰って同じ家を建てる

001LAに帰ってきてからは、急いで家の製図が始まりました。月曜の晩に帰ってきて、水曜の朝にはジェフとの打ち合わせがあったので、実質1日でロケハンしてきたものを図面とCGに落とし込む必要がありました。このあたりのスピード感が、ハリウッドは無茶なんだよなーと感じます。水曜日に打ち合わせをして、撮影のために多少セットを修正して、木曜日には材料を発注し、金曜日にはパネルを工場で建てはじめないと、翌週のスタジオでの建て込みに間に合わないのです。

金曜日にパネルを作り始めている間に、窓やドア、巾木やモールディングなどの建具をざーっと発注します。とにかく家1軒分なので、大量になります。家具や小物もどんどん探して発注しないと間に合いません。製図と同時に装飾のニコールが小道具を探してくれていましたが「これのサイズはいくつだったっけ?」というメールが、何十通も来るので、製図もしながらロケハンの写真から家具のサイズを割り出す作業にも追われて、てんやわんやでした。

そんなスケジュールでも、土日は誰も働きません。金曜日の晩に、「じゃ、みんな良い週末を~」といって別れたら、今までのドタバタは何だったんだ!と言いたくなるくらい土日は何も起こりませんでした。でも月曜日は朝の7時からフルスロットルで仕事が再開します。

モデリングから図面までRhinoで完結

今回の図面は、全部Rhinoでやりました。とにかく急いでいたので、3D作ってそのまま図面、というワークフローでやるしかない!と焦って決めました。振り返ってみれば、やはり2D図面はAutoCADで描いた方が早かったかも、と思いました。細かいパーツの図面とか詳細を描き込んでいけばいくほど、3D空間であることが不便になってきます。

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パネルのサイズ表を作るために、3D空間に平面パネルを並べだした時に、なんでこれ3Dでやってるんだろう、、、、と自問自答してしまいました。

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窓枠など、多くのパーツはCNCに出す必要がありましたが、その部分は、Rhinoで作ってた分、データ出力がワンクリックでできて楽でした。

セットデザイナーの仕事はここまで

僕は撮影自体には参加していません。建て込みが始まる前に大道具さんの倉庫で実際にパネルやパーツを作っているところまで行って、大道具さんと打ち合わせなどはしましたが、スタジオでの建て込み、撮影には行きませんでした。実際、撮影現場に僕が行ってもできることは少なく、現場は現場のエキスパートに任せておくのが早いので。このあたりも、ハリウッドシステムを感じさせられますね。日本の感じとどっちがいいかは別の話ですが。