Born A Crime – Trevor Noah

子どもの頃、あまり裕福でなかった今井家では、よくハトのエサを朝ごはんに食べていました。朝に近くのパン屋さんに行って、パン屋さんがサンドイッチを使った時に出る、不要なパンの耳を、ビニル袋に詰めてハトのエサ用に10円とかで売っていたのを買ってくるというお使いをしてた記憶があります。僕はパンの耳がハトのエサとは知らずにパクパク食べていたのですが、ある日そのパンの耳の詰まった袋を遊びに持っていこうとしたら、母親に「それハトのエサやから、そんなん持っていったらハトが集まってくるで!」と止められました。その時に、自分が今まで食べていたものはハトのエサだったと分かってショックだったのと、その袋に大量のハトが群がっているのを想像して怖くなったのを覚えています。

そんなエピソードを思い出したのは、先日、Trevor Noahの『Born A Crine』を読んでいた時でした。Trevor Noahは去年僕が一番ハマったアメリカのコメディアンです。まだデビューして間もないのに、めちゃくちゃ面白くて、しかも既にアメリカのメインストリームで露出していて、去年末にはオバマ大統領と単独インタビューもして、さらには自伝まで出版された注目株です。この本は日本ではまだ出版されていませんでしたが、Kindleにあったので、即クリックしてしまいました。

Trevor Noahは、自身が南アフリカ出身で、生まれたときはまだアパルトヘイトの真っ只中でしかも黒人と白人のハーフだったので、生まれたときから違法(Born a crine)という境遇の持ち主。黒人のスラムで警察に見られないように隠れて育ち、白人コミュニティに馴染むこともできず、混色コミュニティからも毛嫌いされ、様々な迫害や差別、そして、貧困という逆境の中で育つのですが、驚きなのが1984年生まれというタイムリーさ。うちの弟より若い!よくも、そんな奴隷制度の状況から、こんなに短時間で、アメリカを代表するコメディアンに成長できたな!と驚きです。僕は、彼の番組以外でも、彼の出ているYouTubeは全部見たでしょうし、ラジオやwebニュースも逐一チェックして彼をフォローしていました。

Comedy Centralの彼の冠番組では、彼がアフリカンジョークという黒人ネタを話すだけでなく、他にアラブ人と中国人が出てきて、「道を歩けばテロリストに間違われる」「何かあるとすぐキレて、中国語で怒鳴りだす」といった自虐差別ネタをふんだんに使ったジョークを繰り返すのです。これが時代にマッチしまくってて見事で、死ぬほど笑えるのです。特に去年はTrump大統領誕生もあって、黒人差別ネタは盛り上がったし、南アフリカの独裁者とTrumpの比較ネタも、タイムリー過ぎて過激でした。僕は、日本人はトランプさんよりももっと差別主義だと思っているので、自分たちへの戒めも含めて、笑えるのです。

そんなTrevor Noahは、子どもの時、近くのお肉屋さんに行って『犬のエサ』、つまりは、肉をノコギリで切ったときに出る肉の切りクズを集めたもの、をもらって帰って、それを家族で食べていたというのです。そのエピソードを読んだときに、僕が昔ハトのエサを食べていたことを思い出しました。

この本には、貧しくても心を清く保つ大切さ、そして、自分の目に見える範囲の外のことを知る大事さが綴られています。アパルトヘイト政策下では黒人は狭い居住区に閉じ込められてそこから出ることが禁じられていましたが、そんな中でも、壁の外を見ようとして飛び出していくことの大切さ、そしてTrevorが実際に短期間でそれをやってのけたかが書かれています。

さらに僕がズバリ共感だったのは、outsiderがinsiderになるよりも、insiderがoutsiderになる方が困難、という箇所です。これは難しいポイントで分かりにくいのですが、だからこそ僕らの社会に潜む盲点だったと思いました。例えば、日本人がたくさんいて、その中から、「これでは満足できない。海外に行って頑張る!」と言って海外に行けば、日本人はそれを「頑張れ!」と応援します。しかし、この同じ人が「これでは満足できない。海外のやり方を日本で実践する!」と言うと、周りは「おい、ちょっと待てよ」と、彼を応援しません。この社会心理ってすごくデリケートだけど重要だし、Trevorの言うことは僕もすごく共感でした。

BrexitやTrump大統領、ドイツの移民の問題など、グローバル化やらポピュリズムやら近代化による格差社会やらが問題として議論される世の中で、Trevorが『実体験として』語るアパルトヘイトと、その中で生活する人々のいがみ合いと、そしてそれを乗り越えることの大切さは、現代社会を生きる読者にとって大切な学びになると思います。

という、書評でした。星4/5個中。

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