恵まれた出会い、ご縁~僕の履歴書4

「学生ビザが切れるタイミングで、『アメリカで活動を続けるより、日本で一からがんばって、またアメリカに戻って来られるように』と思いました」

留学を終え、日本への帰国を決意した理由は何だったのかと質問すると、今井はこう答えてくれた。

 

「日本でゼロからの出発でもいいかと。そう思ったのは、アメリカに居続けた日本人の先輩たちを見ていて思ったのも一つです。アメリカに居続けるには就労ビザを確保しないといけない。そのためには会社に属していなければならず、例えば日本人レストランなどで働いていなければなりません。その『本業』の合間で映像制作に携わるというのは、本末転倒だと。自分のやりたい美術に割く時間を削ってまでアメリカに居続ける理由はないと思いました」

 

今井はこういった理由から帰国し、大阪の実家に身を寄せた。

上京するまでの約1年間の実家暮らしの中、今井は何をしていたか。

コネクションを作っていた。

「ある時、大阪で、自主映画製作を支援したい人たちの集まりがありました。その集まりに参加された人の中には、関西経済界の大物の方もいらっしゃいました。僕はプレゼンをする役目をこなしたわけですが、そこで僕に目を付けてくれた方がいらっしゃって。一人と知り合うと、その方のお知り合いということで、どんどん人脈ができてきて。その中の一人に上京するにあたって、映画監督を紹介して頂いたりしましたね。」

 

ふと疑問が湧いた。

「関西で有用なコネクションが作れていたなら、なぜ、上京する必要があったのか」と。

この疑問を向けると今井はこう答えてくれた。

「美術の仕事は東京にしかないからです。だから上京しなければならなかったのです。東京の右も左もわからないという状況で、今言ったように、紹介してくださった人脈が活きました」

「また」と今井は言葉を続ける。

「上京してすぐ、映画『ウォーターボーイズ』でプロデューサーを務めた土本貴生さんから言われた言葉があります。『アメリカで修業を積んだ今井君なら、今までにないデザイナーになれる。だから一人でがんばれ』。今にして思えば、この言葉は当時の僕にとっては少し早かったとも思いますが、どこかの美術制作会社に入るわけではなく、ずっとフリーランスとしてやってきたので結果的にはそうなりました」

 

フリーランスとして活動していると、素晴らしい出会いがあった。

高橋カイとの出会いだ。

「カイさんとはSNSで知り合って。最初から一緒に仕事をしていたわけではなく、しばらくは飲み友達でした。一緒に仕事をするようになってから、『二人で始めようか』ということで、カイさんがコロニーという会社を立ち上げてくれて。コロニーで仕事をしていた期間は、約1年間とも言えますが、実質6、7か月です。コロニーでの仕事をする傍ら、タイでの映画『A Moment in June』(関連記事:タイアカデミー賞を受賞‐映画『A Moment in June』)の撮影などに参加していましたから。そんな中で、カイさんが体調を崩されてしまって。コロニーでの仕事のほとんどを僕一人でこなしている状態が続きましたが、結局それだと僕が社長ではないので、お金のやり取りができない。であれば、自分で会社を設立するしかないということで、『ナラデザイン』を起こしました。」

 

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-11-22-09-59-08

ここから、今井の動きは徐々に加速し始める。

「ナラデザインは最初から仕事が多くあったわけではありませんでした。設立当初は月に1本くらいの撮影に携わる程度でしたが、それが月に2本になり、3本になり。だんだん増えてきました。最初の1年間はナラデザインの売り上げは1,000万円くらいだったのが、2年目には3,000万円になり、3年目には7,000万円になって、4年目は一億に少し届かないくらいの金額まで売り上げが伸びて。3年目の時点で年間100本くらいは映像美術に関わっていて、4年目からは数えるのをやめたほどでしたね」

 

今井の話を聞いていて、強く感じたことがある。

「今井さんは節目、節目で人とのご縁に恵まれたのですね」と。

その感想を口にすると、今井は穏やかに、こう答えてくれた。

「上京してからフリーランスとして活動しながら自分で作っていた流れと、カイさんと出会ってコロニーで一緒に仕事をした流れ。この二つが絶妙に織り交ざった結果、ナラデザインは上手くいったのだと思います」

 

今井の歩みを振り返る「僕の履歴書」シリーズ。

連載は今回が最終回だ。

今井の辿った道のりが、今何かに迷っている方にとって道しるべの少しでもご一助になることを切に願い、筆を置こう。

(関連記事)

美術デザイナーになるために〜僕の履歴書 1

美術デザイナーになるために〜僕の履歴書 2

勇気の壁を乗り越えた先に~僕の履歴書 3

海外での仕事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください